僕は見慣れたその道を歩いていく。道は嫌と言うほど覚えている。でも、足取りは重たくて両方の足首に鉄枷(てつかせ)をはめられたようだ。…まぁいい、足取りが重たくても軽くても彼女は待ってくれるだろう…だから、焦らなくても良い。
 道の隅に花びらが6つに分かれた、あの白い花をいくつか見つけた。彼女が喜ぶだろうから、1つだけ摘み取った。
 そして前を見据えると、船着場(ふなつきば)に黒衣の船頭が舟を漕ぎながらやって来た。

見えるものは君の後姿

 彼は僕に礼をすると、
「いつもの所ですかぃ?」
 と尋ねてきた。僕は黙って頷くと彼は
「分かりやした。いつも通り銭はいりやせんよ、旦那」
 と言って、僕を舟へ乗せてくれた。彼がオールで器用に漕ぐと、舟はゆっくりと東へ進みはじめた。
 彼は、僕が東へ行き始めてからの付き合いだ。最初僕は彼に載せてくれた礼にと銭をあげていたのだが途中から彼が
『旦那、もうあっしにゃ銭はいりやせんぜ』
 と言って、銭を受け取らなくなった。僕は彼の意思を尊重して、銭を彼に渡さなくなった。
 行き先は、東の岬に立っている教会。そこに、彼女はいる。






 船着場へ着くと、船頭は舟をロープで固定した。僕が船から下りると、彼は
「あっしはここで待っていやすから、旦那は早く行ってきてくだせぇ」
 と言って、持参した煙草に火をつけた。
 僕は彼に頷くと、教会は船着場からまっすぐの所にある岬だ。まっすぐに行けば、問題ない。
 僕はその道を歩き始めた。すると、船着場への道にあったあの白い花がここにもあった。僕は花を3輪摘み取ると、岬を目指す。



 岬が近づくにつれて、道が傾き坂へと変わる。
 僕は額の汗をぬぐうと岬にある教会を目指して歩く。
 手に持っている花は、教会へたどり着く前にしおれていないかどうか心配だ。花を見ると、生き生きと咲いている。
 良かった、と安心していると前方に白い十字形が見えた。僕は前を見据えて歩きつづけた。すると、目の前には教会――正確には教会跡と、海が見える位置に白い十字形の墓標が立っていた。
 僕は、その白い墓標に近づくと花を置いた。土台のプレートには
『最後のシスター マリア・アポフィライト ここに眠る』
 と彫られていた。



 彼女――マリアは、僕の婚約者だった。
 僕がここへ来るたびにこの場所で赤い日傘を差しながら僕を見ていた。病弱で、誰にも優しくて、僕達は愛し合っていた。
 3年前の夏、その年の流行り病で彼女はあの世へ旅立ってしまった。その後、教会は維持しつづける事ができず3年前の夏から少しずつ朽(く)ちていっている。
 ここで目を瞑(つぶ)る度に思い出すのは僕が彼女にプレゼントした赤い日傘を差したマリアの後姿だ。
 ガーネットのような紅(あか)い髪、サファイアのような蒼(あお)い目、そして…砂浜のような白い肌。
 …ああ、マリア。君は空から…僕を見ているかい? 僕は…君の分も生きる。だから…だからいつもまでも、見守っていて欲しい。

 マリア、ずっと…愛しているよ………。

Fin.

後書き(と言う名の言い訳)
 神無月 夜音様のキリ番700のリク『タイトルは見えるものは君の後姿で、内容は哀惜系』でした。
 哀惜系って何? どう書けば良いの?? だったので、今回はBGM付きで書きました。
 曲名はポルノグラフィティの『シスター』です。
 内容が『シスター』の歌詞をモチーフにしたので哀借系じゃなくて哀愁系になってしまいました。…なんだか恥ずかしいです。書いている私が言うのもあれですが、恋愛ものって難しいですね。恋愛が簡単に書ける人がうらやましいです。
 神無月 夜音様、内容がかなり哀借系とかけ離れていてごめんなさい。こんな小説でよろしければ受け取ってください。



雲峯水零