――今年の夏祭りは、何か嫌な予感がする。
 夏祭りが行われている神社へ、出かける前に感じた悪寒。まさか、本当に当たるとは思っても見なかった………。

夏祭りの神社で幽霊と

 石造りの階段を上りきって見えてくるのは、祭囃子(まつりばやし)の音と、夜店でにぎわう人たちの声。
 俺はそんな音に耳を傾けながら、階段を一団ずつ踏みしめながら上る。
 今年のお年玉も、この日のために取っておいたのだ。高校の最後の夏、最初の思い出といえば夏祭り。俺はウエストポーチに財布があることを確かめると、鳥居をくぐった。
 その時、
 俺は肩に重い物が背負っている事を感じた。すると、脳内から声が響いてきた。
“ごめんねー、ちょっと君の体を借りるよ〜”
 はぁ? どういう事だよ。俺は脳内から響いてくる呑気(のんき)すぎる謎の声に耳をかたむけながら、誰もいない社の裏手へ急いだ。
“おーい、そんなに急ぐ事は無いじゃないか”
 お前が俺に語りかけるから急ぐ羽目になったんだよ!!
 俺は内心“声”に文句を言う。気がついたら、社の裏手に来ていた。俺は、脳内に響いてくる“声”に話し掛ける。
「おい、おまえは一体誰だ?」
“僕かい? 僕は喜多原藍琉(きたはら あいる)だよ。君は?”
「女かよ、オイ」
 俺は脱力してその場にしゃがみこんだ。何で俺に女が取りつくんだよ。
“失礼だね、君は。僕は男だよ。名前を言ったら常に誤解を生むんだけどさ”
「あーそうかよ。俺は高西功成(たかにし こうせい)」
“ふーん。功成で良いね”
 勝手に決めるな。俺は内心呆れと怒りを覚えながら、藍琉に訊いた。
「藍琉。何で俺に取りついたんだ?」
“うーん、それが僕にも良く分からないんだ。功成と僕の相性が良かったからちょっと身体を借りただけなんだけどね”
 マジかよ、オイ。 …やれやれ、これも俺の体質だな。



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 俺の体質は霊媒体質といって、幽霊に取りつかれやすい体質らしい。ガキの頃から悪霊に取りつかれて死にかけたり、自縛霊になつかれたりと結構苦労をした。
 夏祭りへ行く途中で悪寒を感じたけど、まさか当たるとは…。
「で、藍琉。お前はこれから何をしたいんだ?」
“うーんとね、僕はお祭りを楽しみたいんだ”
 …無欲だな。ま、姿を見えないけど口調がガキだし、ガキが考える事と言えばそんなもんか。
「分かったよ。お前が飽きるまで楽しむぞ」
“本当?”
 藍琉の声が嬉しそうに聞こえてきた。
俺は立ち上がって伸びをすると、夜店の方へ歩き出した。



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 俺は藍琉がやりたい事や、食べてみたい物を片っ端から選んだ。たこ焼きに、輪投げ。ヨーヨー釣りに射的、くじ引きに型抜き、その他諸々。
 俺は元いた社の裏手へ腰をおろすと、藍琉に話し掛けた。
「どうだった、藍琉。楽しめただろ?」
“うん。ありがとう、功成。これで、僕は”
 すると、俺の肩が軽くなった気がした。空を見上げると、流れ星が一瞬見えて消えてしまった。
「じゃあな、藍琉」
 あの世で、楽しく暮らせよ。

Fin.

後書き(と言う名の言い訳)
 キリ番900を踏んでくださった猫日 空様からのリクで「男の子が、神社のお祭りで幽霊の子に出会う」お話を書かせてもらいました。
 タイトルは私の独断と偏見で決めさせてもらいました。…UPするのが遅くなってしまい申し訳ないです。
 猫日 空様、こんなキリ番小説でよろしければ受け取ってください。



雲峯水零