テスト勉強


 部屋の中で、一人の少女が床に座って勉学に励んでいた。彼女は黒髪のロングボブに紺縁眼鏡、服装は青いシャツに洗いざらしのジーンズとシンプルなものだ。

 部屋はベッドとクローゼット、学習用机に、脚の短い木製のテーブルのみだ。床には白いじゅうたんがしいてある。

 彼女はどうやら勉強中らしく、先ほどからシャーペンを右手に握ったまま唇をとがらせている。

「あーもー、わからへーん!! 英語なんて日本人には必要あらへん。…読み書きとそろばんが使えたらそれでええねん」

 少女はシャーペンを木製のテーブルに置いたとき、部屋のドアが開いて金髪碧眼の少女が入ってきた。金髪碧眼は半袖のハイネックにロングスカートと大人びた服装だ。

「何やってんのよ、(あお)

 青と呼ばれた少女は唇をとがらせたまま金髪碧眼を見上げた。

壱葉(いちよう)には、わからへんわ。うちの気持ちなんて」

「そりゃ、分からないわね。私、読心術使えないし」

 壱葉と呼ばれた少女は即答すると、ドアを閉めた。すると、ドア越しにガチャガチャと音がし始めた。青は何事かと見構えたが、やがてドアが開いた。

 入ってきたのは青い花と白い花があしらわれたティーセットを持ってきた壱葉だった。カップは青い花と白い花ではなく、桃色の花があしらわれているのと赤い花があしらわれている物だ。ソーサーも同じ物だ。

「何や? それ」

「ティーセット。知っているでしょ?」

 桃色のティーカップ――青用のカップだ――に紅茶を入れながら壱葉が答えた。

「英国人は勉強する時に茶を飲む習慣があるんか?」

「今、ティータイムの時間なのよ。それに、その習慣は偏見よ。青」

 カップを置いたソーサーを青に渡しながら壱葉が真顔で言った。

「おおきに」

「ん」

 青が礼を言って紅茶を口に含むと、レモンのさわやかな風味が口いっぱいに広がる。

「今日はレモンティーよ。ついでに、おやつはバタークッキー。でも、」

 と、壱葉はいったん区切ると青の顔面すれすれまで自分の顔を近づけると、

「あんたの宿題とやらが終わってからね」

 青は一瞬だけだが、身の危険を感じた。

 壱葉は顔を遠ざけて自分のティーカップ――赤い花があしらわれたティーカップ――に紅茶を入れて、一口飲む。

「で、お見せ」

 テーブルにソーサーとカップを置くと、左手で促した。青は黙って今までやっていたプリントを渡す。

「全部簡単じゃん」

「英語が苦手なうちにとって、その台詞は結構傷つくんやで」

「ごめんごめん。―――で、ヒントね。問題一はbe動詞の過去文と過去進行形。問題二はbe going to〜を使うの。以上」

 壱葉は一気に言うと、青に返した。青は壱葉のヒントを頼りに問題を解いた。壱葉が英語の文法に関する専門用語を言ったのでちんぷんかんぷんだったが。



「い〜ち〜よ〜う〜、できたでぇ〜」

 生ける屍化した青は壱葉にプリントを渡した。

「…。青、問題一の最後が違う」

「え?」

 壱葉に渡されたプリントを見ても、青はどこが間違っているのか解からなかった。

「主語のあと、何でwasなの? wereでしょ」

「え? そうなん?」

「…。うん、複数形――つまりyouとか、名前が二人以上、theyは複数形よ。お分かり?」

「お分かり〜。――なあ、ええ加減にクッキーよこさんかい」

「問題二の間違いとが終わったらね」

 壱葉の一言に、青はこの場から立ち去りたかった。が、壱葉の次の一言で我に帰る。

「ところでこれ、何のプリント?」

「今度のテスト対策プリントうち専用(・・・・) made in 河西(かわにし)teacher」

 壱葉が呆れたとはいうまでも無い。ちなみに、河西teacherとは、英語教師である。



Fin.